INTERVIEW

2016年04月04日

東京海上日動火災保険(中国)有限公司

東京海上日動火災保険(中国)有限公司 – 人事施策によって風土を変え、社員も企業も、さらにはお客様も幸せにする

東京海上日動火災保険(中国)有限公司 – 人事施策によって風土を変え、社員も企業も、さらにはお客様も幸せにする

東京海上日動火災保険(中国)有限公司

副総経理 末吉 建介氏
総経理助理 兼人力資源部 部門総経理 蒋 英 女士

保険という商品は、保険を必要とする出来事、例えば事故などが起こって初めて、その価値がわかる。特に、その際の社員のお客様に安心・安全をお届けしようという意識と行動が、そのサービスの品質を左右する。日々状況が変化する中国の中で、そんな目に見えないサービスの質を高く保って実行する人材をどう育成しているのか。また、戦略の転換期にあたり、求められる人材も変わりつつあるという課題に、どのように対応しようとしているのか。
東京海上日動火災保険(中国)の日本人経営幹部の立場で中国拠点の人事を統括する末吉建介氏と、人事全般を統括する蒋英氏にお話を伺った。

「人性化」を東京海上の強みと定義する

――東京海上様は「To be a Good Company」をグループメッセージとして、グローバルのどの地域でも、Good Companyであることを目指していらっしゃると伺っています。そんな東京海上様の、中国における戦略と課題についてお伺いできますか。

末吉 東京海上は、1994年に中国上海に進出しました。日本のお客様が中国に事業進出したことに伴い、中国現地で損害保険の面からサポートすることを使命として中国での業務をスタートしました。
日系企業の中国への事業進出・拡大が一巡したことに伴い、今、私たちもローカル市場に挑戦しなければならない、という命題があります。そこで、ローカルの企業や個人を対象にした「自動車保険」と「医療保険」を、第二、第三の事業の柱とする取り組みを始めているところです。これが、2015年度からスローガンとして掲げた「Rebuild & Challenge」です。
中国でも日系企業がお客様の場合は、競合企業がどこかは判っていましたし、必要とされるのは日本と同様の対応でした。ですが、ローカル市場に打って出るとなると、実に様々なローカル企業が競合となります。効率化も必要になります。そのためのプランを作ったり、業務プロセスも次々と変えていかなければなりません。現在は、これが戦略実行上の課題です。

――その中で、東京海上様の成功のためのポイントとお考えになっていることは何でしょうか。

末吉 例えば「自動車保険」は、中国市場で保険分野のメインとなるものです。当然、競合が非常に激しい分野です。そこでこの取り組みを始めるにあたって、「何が我々の強みなのか」ということを、相当に研究しました。
その結果、「人性化(レンシンホァ)」が、東京海上の強みであり、これからも強みとしていくべきだという結論をだしました。「人性化」とは、お客様を第一に考えた、真心を込めた対応のことです。日本で100年以上の歴史をもつ東京海上が、日本国内でのお客様から支持されてきたこと、中国の日系企業のお客様から支持されてきたこと、東京海上のグローバル市場での成功要因などを総合すると、「人性化」が東京海上の基礎である、それが中国においても競合企業との差異化になる、という結論に達したのです。
今、中国の方は、日本に旅行に行かれたりして、日本の商品の品質や細やかなサービスを評価されています。保険に対しても、高品質な対応を期待しているはずです。我々はその期待に応えなければなりません。

人材育成は、求める行動を「みせる」と「評価する」が基本

――サービスという形のないもの、しかも、最高品質なサービスを、中国人スタッフと一緒に提供するために、どのような人材育成をされたのでしょうか。

末吉 保険という商品は、何か事故が起こった時でないと、サービスの良さがわかりません。ですから、日頃のお客様対応を含めて、中国人社員に対応している姿を見せるというOJTを、人材育成の基本にしています。口で言うだけではなかなか伝わりませんし、信用もされません。事故が起こった時の対応を見て、「東京海上が言っていたことは、本当だった」と実感してもらう。これしか方法はありません。

ただ、この方法がどんな人にも必ず通じるかというと、そうではないかもしれません。人事制度の中で我々が求める人材像を明確に伝えて、求める行動を実践できている人を評価し、できていない人には厳しく評価をする。人材育成は、この繰り返しだと思います。

 これからローカル市場にも取り組んでいきますから、求める人材も変わってきます。
これまではお客様が日系企業でしたから、日本の東京海上のやり方を、日本人のスタッフが主導してやっていました。ですが、ローカルの企業や個人が顧客や競合相手になりますと、日本人ではわからないことが当然多くなります。中国人のメンバーが主導して、何をするか、から考えて行動しなければなりません。
それができる人材を、採用しなければなりませんし、育成しなければならないということが、今の人材開発の課題です。

――優秀人材のリテンションも重要なテーマだとお聞きしています。人材のリテンションのために、一番大切だとお考えのことは何でしょうか。

 この会社で、自分が望むキャリアアップができるのか、自分の実績も出しながら、会社も成長していくことができるのかどうかは、中国人が会社に求めることとして重要です。

末吉 それを東京海上にあてはめて言えば、まず、お客様に私たちのできる最大のサービスを提供することで、永続的に当社を選んでいただく。お客様の期待に応え続けることで、自分のレベルも上がっていく。会社もそれによって少しずつ拡大する。もしかしたら給料もあがっていく、というWin-Winのサイクルをいかに拡大させていけるか、ということです。
そのことをWin-Winのサイクルであると認識してくれる人材、つまり、東京海上の理念に共感できる人材をきちんと把握して、リテンションしていかなければなりません。
そのための施策の1つとして、東京海上では「To be a Good Company」という企業理念を具体的に体現する活動に全社を挙げて取り組んでいます。また、特に良い行動をした人を「MVC(Most Valuable Challenge)」という形で表彰したりしています。

 この「Good Company」というテーマはシンプルで、永遠に考え続けられるテーマだと思います。「トップダウン」で何かの行動を求められるのではなく、「ボトムアップ」で考えていくことができます。先ほど、自ら考える人材の育成が課題だといいましたが、それを行うことができるテーマであることが素晴らしいと思います。

领导力培训,不仅改变学员也可改变企业氛围

――準リーダークラスの方の選抜研修を弊社もお手伝いさせていただいていますが、施策の背景と手ごたえをお伺いできますか。

末吉 この研修は2013年から始めた施策です。次の世代を引っ張っていける人材を、きちんと育成していきたい、という問題意識から始めたものです。
中国の東京海上で長く働いてくれている社員は今、管理職として重要なポジションにいます。ただ、会社の創業当初から比較的近年までの期間、サポートや事務的な業務が彼らの主要業務でした。そのため、これから必要となるマインドやスキルを身に着ける経験やトレーニングを受ける機会が少なかったと認識しています。トレーニングを受けていない人が、下の人に必要なトレーニングができるかというと、難しいでしょう。
そこで、現在の管理職と、その下の準リーダークラスへの研修を、隔年で交互に実施することにしたのです。
手ごたえとしては、まずは社員が、会社は人材育成に力をいれてきたな、ということを感じたことです。また受講者本人は選抜されたということだけでもモチベーションがあがりますし、実際にマインドやスキル面でも大分変わりました。

 例えば、課題を定義するときに、簡単に目の前に起こっている現象を課題としてとらえるのではなく、本当にそれが課題なのか、どこが問題なのかを深く考えたうえで、解決すべき課題を定義する。少なくとも、そうすべきだという意識付けはできたと思っています。

末吉 「戦略フレームワーク」を教えてもらえたのも有効だったと思いますね。現象をどう整理し、分析しながら解決策をみつけていくかを、学んでは実践し、振り返って考え直す、を繰り返していくというやり方も有効でした。
さらに言えば、東京海上では部門を超えたコミュニケーションが薄いという課題認識がありました。私はここまでが仕事、あとは向こうの話でしょ、という考え方です。それが、一緒にアクションラーニングに取り組んでいく中で、少し変わったという気がします。
それぞれの部署や立場によって考えていることが違うということを、議論を通じてお互いに認識していましたし、一緒に苦労を分かち合った仲間だという、ある種の結束感もあって、コミュニケーションが深まる基礎ができたと思います。これは本人たちにとってよいことですし、会社にとっても非常にいいことだと思います。実施してよかったと思いました。

 研修の企画と運営をずっとみてきた私の立場からは、半年間という長い研修期間の途中でも、工夫を追加できたこともよかったと思います。研修スタート前には、受講予定者に対して説明会を開きました。集合研修毎に講師からのフィードバックや、受講者の声を聴いて、その分析を次の集合研修の中で活かしてきました。
受講者はもちろん、事務局もセルムさんも、最後のプレゼンテーションを良くするために、一緒に動くことができたと思います。

末吉 受講者の上司の中には、部下の研修受講に対する関心が高くない者もいました。そんな彼らに対し、セルムさんにまとめていただいた研修レポートをシェアする、などの働きかけができたこともよかったと思います。
研修は、受けただけではだめで、実際に自分の職場に戻って、状況分析、課題設定、実践、振り返りなどのPDCAの繰り返しができないと意味がありません。その機会をつくっていくためにも、上司を巻き込む事は大切だと思います。

 個人的には、研修最終回のプレゼンテーションを見た弊社の社長が、「こんなにたくさんの課題があるのか。自分ももっと頑張らないといけない」と少し笑いを交えてコメントしたことが、印象的でした。考えが浅い発表もあったと思いますが、真剣に考えて提案してきたことを、感じてくれたのだと思います。

末吉 トップレベルで認識している課題と、現場レベルで認識することは、同じ事象でも見えている角度が違うということもあります。現場ではこのような課題認識をしているということを理解できたという意味でも、よかったのではないかと思います。
そうはいっても、まだまだ課題の設定や解決は、組織の上層で行っているのが現状です。リーダーや準リーダークラスが、課題設定から解決のアクションを含めたPDCAを、現場でどんどん回していけるようになれば、相当に弊社はパワフルになります。それを期待していきたいですね。

――ありがとうございます。ところでお二人ほど、密に連携しながら人事施策を進めていらっしゃる企業も少ないと思います。日本人HRと中国人HRの連携ということについて、何か気をつけていることはあるのですか。

末吉 いや、本当に普通にやってきているだけです。お互いに同じ方向を向いていて、向かうべきところの共有ができているというだけではないかと思います。
私は日本の東京海上でのやり方を知っていますが、人事のプロフェッショナルではありません。蒋さんは人事のプロフェッショナルです。できる限り情報をシェアして、よく相談するようにしてします。
相談といっても、「これでいいと思う?」という、普段通りに会話する感じなのです。

 東京海上の理念は大切ですし、日本企業に特徴的なこともあります。一方、中国の企業でもあるので、私と末吉さんがペアになって進めることが良いのではないかと思っています。

末吉 私が自分の考えを、日本語でストレスなく話すのを、蒋さんをはじめ人事の人たちはそのまま理解してくれます。

 末吉さんも中国語がわかりますよね。

末吉 私も蒋さん達が中国語で話しても理解できますので、そのまま会話が成り立ちます。もしかすると、そんなところもうまく作用しているのかもしれません。
我々は人事の仕事を「会社のコアの部分を担当している」という意識でやっています。ここがうまくいかないと、たぶん社員が不幸せになってしまうのです。それは嫌なのです。社員を路頭に迷わせることなく、皆が活き活きと働ける職場をつくりたいと思っています。

――熱いお話をいただき、今日は本当にありがとうございました。

Interviewer :

升励銘企業管理諮詢 総監 武智 和也

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