INTERVIEW

2016年04月04日

東陶(中国)有限公司

東陶(中国)有限公司 – TOTO WAYを大切にする リーダーと一緒に会社を成長させたい

東陶(中国)有限公司 – TOTO WAYを大切にする リーダーと一緒に会社を成長させたい

東陶(中国)有限公司

事業管理本部 副本部長 (集團人事統括 負責人)
藤江 昌明氏

TOTOの旧社名は、東洋陶器(株)という。その名前の示す通り、創立当初からアジア全域をはじめとするグローバルでビジネスを行う、グローバル企業となることを目指している。そのTOTOが定義するグローバル企業とは、単に海外に多くの拠点をもつ企業のことではなく、それぞれの地域社会から持続的に必要とされる企業のことだ。
そんな「真のグローバル企業」を目指しつつ、且つ近年の中国市場の変化に伴い新しい戦略戦術に取り組む東陶(中国)有限公司。その人事を統括する集團人事統括 負責人の藤江昌明氏に、中国市場の戦略と人財開発の課題について、お話を伺った。

「真のグローバル企業」になるために、守らねばならないものがある

――現在、TOTO様は海外売り上げが50%を占める企業グループとなることを目指しており、その牽引的な役割を期待されているのが中国だと伺っています。改めて、現在の状況分析と課題をお聞かせいただけますか。

藤江 TOTOが中国に進出してから30年が経ちました。スタート当初は、営業拠点を作り、日本で製造したものを中国で販売する形式でしたが、その後中国に工場をつくり、販売網をつくり、順調にビジネスを成長させてきました。
ただ今までは、ずっと市場に追い風が吹いていたといえると思います。中国におけるTOTOは、高級ブランドとしての認知・評価を維持しながら、右肩あがりの旺盛な需要に応えて、狙いの市場に品質のよい商品を提供することで、成長を継続してきました。
しかし現在、経済成長が緩やかになり、以前の毎年10%以上の成長が当然であった時と比べると、市場は様変わりしています。例えば住宅に関しては、既に建設され、ストックされた在庫が積み上がっており、竣工が足踏み状態となっています。TOTO商品の購買層の年齢も、今後はバーリンホゥ・ジューリンホゥ(80年代生まれ・90年代生まれ)といった若い層に推移していくと想定されるため、若い顧客層に訴えるプロモーションを考えていく必要があります。また、TOTOの商品は、従来は代理店と販売契約し、代理店は建材市場やディベロッパー、工事業者へ販売するといった流通が主ですが、最近では、使ってみたいと思った消費者が、直接ネットで探して購入する市場が拡大しています。販売するチャネルも多角化していかなければいけませんし、既存の代理店網も再整備する必要があります。
ただ幸いなことに、我々TOTOのブランドや技術が強みを発揮する分野をいくつか見つけています。例えば、温水洗浄便座、TOTOの商品の名前はウォシュレットですが、2015年度は対前年比約150%の販売増となりました。
これは、日本に旅行し、日本でウォシュレットを使った人の口コミがSNSなどで拡散し、ウォシュレットが「使ってみたいブランド」であるという認知が拡がった影響が大きいようです。
せっかくウォシュレットを欲しいお客様がいるのですから、ウォシュレット単品ではなく、例えば便器とセット販売するなどの販売戦略を行っていこうと考えています。
さらに、中国では2016年の10月から、便器の節水に関する規制が施行されます。便器の洗浄1回あたりに使用する水量を5リットル以下に制限せよ、というものです。この規制に対応し、且つ、きれいに洗浄できる技術力も、TOTOがトップレベルです。
以前から予想はしていたことですが、中国市場では様々な変化や再構築の必要性が、今、目前に迫っており、それをチャンスと捉えて、新たな成長に繋げるべく、取り組んでいるところです。

――現在、TOTO様では中国人幹部の育成に力を注いでいらっしゃいますが、それはこの市場の変化に対応するためということでしょうか。

藤江 そうです。これまではどちらかというと、日本人が方針やビジョンを示して、それをきちんと実行できる人がいれば、うまく仕事が回っていました。ですが、今は顧客ニーズの変化にいち早く気づき、他社との競合状況も理解した上で戦略・戦術を考えていかなければなりません。
日本人駐在員は、どうしても3年~5年ぐらいで入れ替わることが多いですし、市場に一番近いところにいる者でないと、この役割は担えないでしょう。
ただ、現地の人財を育成して、経営の現地化をしていく際に、絶対条件だと思っていることがあります。
TOTOがこれまで大切にしてきた価値観、理念を共有するということです。 TOTOも企業ですから利益の追求は必要なことですが、利益だけを追求しては持続的なビジネスはできません。
第一に考えるべきことはお客さまの満足であり、お客様の期待以上の満足を提供していくことです。だからこそ、「次もTOTOにしよう」と思っていただけるのです。
このような価値観や行動規範は、TOTO WAYとしてまとめられています。TOTOが100年間続いてきたのも、TOTO WAYが引き継がれてきたからであり、中国でもこれを大切にした上で、自分で考えて判断・行動できる人財を育成したいと思っています。

組織の枠を超えたディスカッションが、理解を深め、視点を高める

――中国人幹部育成の具体的な施策として、弊社もお手伝いさせていただき、2015年から実施されている「TOTO幹部研修」の企画背景と手ごたえを教えてください。

藤江 「TOTO中国事業部幹部研修」は、2015年7月から12月にかけて、第一回目を実施しました。
中国内にTOTOグループ企業は9社あり、各社それぞれで教育研修を行っていましたが、これをもう少し体系化した取り組みにしようということで実施したのです。
この研修では、部門間の連携を促進し、事業全体を把握する視点を醸成すること。そして、自発的な課題解決意識を持たせることを狙いとしました。
研修のプログラム内容はアクションラーニングを主体としたもので、日本のTOTOでも行っている選抜研修の中国版といえます。
「企業理念・価値観」「リーダーマインド」「経営リテラシー」「ビジネスモデル」について学んだ後、4つのチームに分かれ、事業部を横断したテーマについて検討を行い、12月17日の成果発表会では、事業部長・各公司総経理の前で提言を行いました。
受講者である各社の中国人幹部は、これまでも互いに顔と名前は知っていましたが、会社の枠を超えたテーマについて協議して、自分たちで解決策を立案するという経験はほとんどありませんでした。
研修スタート当初は、工場のリーダーは工場部門の意見を一生懸命に主張し、営業部門のリーダーは営業部門の意見を一生懸命に主張する。利害が対立して、言い合いになることはあっても、自分たちでどうやったら解決できるか、というところまで、踏み込んで考えることには、なかなか繋がりませんでした。
それが、この研修でグループディスカッションを重ね、会社の強み・弱み、抱える課題、潜在的なリスクやチャンスを議論し、様々な視点から問題を検討したことで、多くの気付きがありました。また、そのプロセスを通じて共通の目的に向けてのチームが形成ができた、ということ自体も成果だったと感じています。
講師も、議論のファシリテーションや意味づけを、非常にうまくやってくれたと思います。

WAYは目に見えないが、個人や組織の意思決定に影響を与えるもの

藤江 組織にはいろいろな考えを持った人がいてよいのですが、「大切にしている価値観・判断基準」に共感した者同志で協働することが「その企業らしさ」に繋がると思います。このことと多様な意見・アイディアのぶつかり、ということは矛盾しません。
WAYは、目に見えない価値観や組織風土ですが、これは個人や組織の意思決定に確実に影響します。
日本のTOTOにいると、それが自然に身に付く環境にありますので、日本から、誰が中国に赴任しても、大事にする価値観は同じです。これは大切なことです。この状態は、現地のリーダーに権限移譲が進んでも、継続しなければなりません。
グローバル企業として成功している企業は、WAYの浸透を大切にしているということを、よくお聞きします。そのために、WAYを浸透させる具体的な教育や仕組みを充実させて持っているのではないでしょうか。

――その通りだと思います。
しかし、あえて質問をさせてください。日本とは様々な局面で異なる中国において、理念への共感は、スムーズに受け入れられたのでしょうか。

藤江 ご指摘の通り、労働慣習も法律も教育の環境も日本とは異なるので、日本人の価値観とは相容れないところは当然あります。中国は、個人の価値観が強い国だと思います。会社のことよりも個人のことを優先し、こちらが当惑するような場面も、当然見てきています。
ですが、TOTOの商品が好きだとか、TOTOの社会に貢献するという姿勢が好きだと思ってくれているスタッフも多くいるのです。
それに、理念に共感を求めるといっても、難しいことに共感してほしいと言っているのではありません。シンプルな、事業が継続しているベースへの共感を求めているのです。
ベースとは、お客様の満足を追求することが、日本であっても、中国であっても、我々の成功の礎であるということです。
複雑で難しいのは、人財のアサインや処遇の方です。評価基準や等級制度についても検討するのですが、地域ごとの給与ベースも違いますし、各社ともこれまでやってきていることがありますから、横串を入れて統一するのは簡単ではありません。
各社共通でできること、むしろ1社だけでなく、異なる組織に所属している人が一緒にやったほうが効果が上がることが、教育や研修なのです。
実は、2015年8月に日本に「TOTOミュージアム」という企業歴史資料館をオープンさせています。TOTO WAYを、展示物やVTRを通じて理解できるコーナーもありますので、そこに海外拠点の幹部社員を行かせて体験させることも、理解を進める良い方法だと思い、行っています。
交通費などの費用が掛かりますが、そのための費用は投資の一環ではないでしょうか。TOTOグループ全体で同じ方向を向いて進むために、これまで大切にしてきたことを次の世代に引き継ぐためにできることを、具体的に行っていかなければならない、と考えています。

人事が、中国人と日本人と企業のWin-Winの関係をつくる

――様々な施策を推進している藤江様が、ご自身のコアにされていることは何でしょうか。

藤江 私自身のことを言いますと、私は中国に赴任して3年になります。赴任した当初は、言葉の違いだけでなく、価値観やコミュニケーションの取り方に戸惑い、すぐにこの地に打ち解けたというわけではなかったと思います。
ですが、スタッフと触れ合っていくと、TOTOで働き、ここで自分は成長したいとかTOTOの商品をもっと普及させたいとか、そんな気持ちを持っている人もたくさんいます。
また私の持論として、会社の発展に自分がどう貢献するかを見いだせた人が、会社の中で成長していける人だと思います。それは日本人でも中国人でも同じでしょう。
この会社に自分はどう貢献できるか、自分のキャリアを伸ばしたり、やりたいことをこの会社の中で実現させられるか、ということを考える人はどこであっても必ずいます。
そもそも「これをやりたい」という気持ちは、人が働くための最初のモチベーションです。人事として、そこにスポットライトを当てられるような仕組みや機会を作っていきたいです。
中国の人も成長するし、出向している日本人も成長し、ひいては企業の成長につながる、といったWin-Winの関係は絶対つくれると私は思います。

――非常に考えさせられました。本日は、本当にありがとうございました。

Interviewer :

励銘企業管理諮詢 総経理 加島 禎二 総監 武智 和也

2016年04月04日

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